遠方に暮らす親に電話をかけて、出ない。買い物か、昼寝か、それとも——。遠距離介護をしている方なら、誰もが知っているあの数時間です。
私たちSimplicoはタイのソフトウェア開発会社です。普段は製造業やエネルギー企業向けのシステムを作っていますが、いま一つ、家族向けのサービスを構想しています。名前は simpliCare。ただし最初にお伝えしておくと、これはまだ設計段階で、製品として存在していません。技術設計書は書き終えましたが、実際に必要とされるか確かめるまでは、開発に着手しないと決めています。
この記事ではその構想を説明し、「ここが違う」というご意見をいただきたいと考えています。とくに日本の読者の方には、見守りサービスの先進国としての目線で読んでいただけると嬉しいです。
なぜタイで、なぜ今か
タイの高齢化は日本を追いかけるように、しかも速く進んでいます。クルンシィ・リサーチによると、タイでは2023年に60歳以上の人口が全体の20%(約1,320万人)を超え、正式に「高齢社会」に入りました。同じレポートでは、一人暮らしの高齢者の割合が2002年から2021年の間にほぼ倍増し、約12%(およそ160万人)に達したとされています。
設計の前提になったデータがもう二つあります。一つ目は、私たちが重く受け止めている警告でもあります。
- 高齢者の多くはオンラインだが、使いこなせてはいない。 約6割がインターネットを利用している一方、スマートフォン利用者の約8割がデジタル機器の操作に困難を感じていると回答しています。
- 実際に判断するのは「サンドイッチ世代」。 子育てと親の世話を同時に担う、多くは別の都市で働く子ども世代です。
課題は「高齢者にアプリをもう一つ増やすこと」ではありません。忙しい子ども世代が「親は今日も元気」という確かな合図を受け取り、何かあったときには家族で素早く連携できることです。親にアプリを入れてもらうこと自体が負担になるのは承知のうえで、親側の画面はできる限り小さく設計しました。
構想をひとことで
毎朝、親のスマートフォンにsimpliCareの通知が届きます。タップすると、大きなボタンが二つだけの画面が開きます。「元気です」と「ちょっと具合が悪い」。服薬の時間には「飲みました」と「今日は飛ばす」。
「元気です」が押されれば、何も起きません。誰にも通知は飛びません。「具合が悪い」が押されるか、返事がない場合にだけ、simpliCareは家族のリストを順番にたどって通知を送り、誰かが「対応します」を押した時点で止まります。
機能はこれだけです。あとはすべて、この流れを確実に動かすための設計です。
アプリは一つ、モードは二つ
家族全員が同じアプリ(iOS・Android)を使い、すでに持っているSNSアカウントでログインします。新しいパスワードを覚える必要はありません。
親のスマートフォンは「シニアモード」。 大きな文字と二つのボタンだけで、迷うメニューはありません。帰省のときなどに子ども世代が一度設定すれば、あとは通知をタップしてボタンを押すだけです。
子ども世代は「見守りモード」。 今日の状況——チェックイン済みか、朝の薬は飲んだか、夜の薬は未確認か——がひと目でわかり、30日分の履歴も見られます。アラートはチャットアプリとは別の優先度の高い通知で届くので、家族のグループLINEのスタンプに埋もれることはありません。
なぜLINEではなくアプリなのか。 最初の設計はLINEでした。親がすでに使い慣れているからです。それでも専用アプリに切り替えたのは、通知が本当に届いたかを最後まで追跡でき、親側の画面を自分たちで作り込め、家族全体を一つの仕組みで扱えるからです。代わりに、親にアプリを一つ入れてもらう必要があります。これが受け入れられるかどうかは、今回いちばん確かめたい点の一つです。
通知はどのように家族の中を上がっていくか
いちばん時間をかけて考えたのがこの部分です。ここで不具合が起きれば、困るのは実在の家族だからです。
flowchart TD
A["朝のチェックイン通知を親のスマホへ"] --> B{"親から返信はあるか"}
B -->|"元気です"| C["完了 誰にも通知しない"]
B -->|"具合が悪い"| E["主担当の家族にすぐ通知"]
B -->|"60分返信なし"| D["もう一度やさしくリマインド"]
D -->|"さらに60分返信なし"| E
E -->|"対応しますを押す"| F["エスカレーション停止 他の家族に担当者を共有"]
E -->|"30分応答なし"| G["副担当の家族に通知"]
G --> F
大切にしているルールは次のとおりです。
- 遅れた返事も必ず反映する。 通知が出たあとで母が「元気です」を押したら、通知を受けた全員に「返信あり、問題なし」と届きます。無駄に実家へ駆けつける人が出ないようにするためです。
- 「具合が悪い」は待たない。 リマインドを飛ばし、すぐに主担当へ通知します。
- ワンタップで担当を宣言。 「対応します」はロック画面からも押せ、他のきょうだいにも誰が対応中かが伝わります。三人が同時に電話をかける事態を防ぎます。
- 夜間は送らない。 21時から翌7時までは親に通知を送りません(その時間帯に服薬時刻を明示的に設定した場合を除く)。
- 親のスマホに届かなければ、家族に知らせる。 アプリの削除、通知のオフ、電池切れなどで通知が届かなくなった場合は、黙って止まるのではなく家族に知らせます。
時間設定はすべて初期値で、家族ごとに変更できます。
個人情報の扱い
薬の名前や「具合が悪い」という回答は、日本でいえば個人情報保護法(APPI)上の要配慮個人情報に近い性質のデータです。タイには個人情報保護法(PDPA)があり、私たちはこれらを機微情報として扱う前提で設計しています。
- 同意は親本人から。 アプリ上で本人が同意するまで、通知は一切送りません。親は自分の画面からいつでも一時停止でき、家族にもその旨が伝わります。
- 家族ごとにデータを完全に分離。 権限を持つメンバーだけが設定を変更できます。
- ログに薬の名前や回答内容を残さない。 記録するのはIDのみです。
- 削除は本当に削除する。 家族グループを削除すると、関連データは30日以内に消去されます。
なお、薬の名前がタイPDPA第26条の機微データに該当するかについては、ベータ開始前にタイの弁護士へ確認中です。それまでは「該当する」として設計しています。
simpliCareではないもの
小さな文字で書くより、先にはっきりお伝えします。
- 医療機器でも、緊急通報サービスでもありません。 救急車は呼びませんし、転倒も検知しません。症状が深刻かどうかも判断しません。「誰かが様子を見に行くべき状況だ」と、できるだけ早く伝えるだけです。
- 電話の代わりではありません。 だからこそアラート画面には「母に電話する」ボタンがあります。
設計済みのもの、存在するもの
| 項目 | 状態 |
|---|---|
| シニアモードでの毎日のチェックインと服薬確認 | 設計済み・未開発 |
| エスカレーションと「対応します」ボタン | 設計済み・未開発 |
| 見守りモード(iOS・Android、タイ語・英語) | 設計済み・未開発 |
| 既存のSNSアカウントでのログイン | 設計済み・未開発 |
| 30日履歴と服薬状況の表示 | 設計済み・未開発 |
| 通院予約リマインド、音声返信、SMS代替 | 初期版の対象外 |
| 家族・介護施設向けWebダッシュボード | 初期版の対象外 |
| 日本語UI、日本市場向け提供 | 未定——この記事で伺いたい点の一つです |
| 料金 | 未定——これも質問の一つです |
日本の方に特に伺いたいこと
日本ではすでに、電気ポットや電力使用量、センサーを使った見守りサービスが数多くあります。だからこそ、日本の経験から学びたいと考えています。
- 親はアプリを消さずに、毎朝ボタンを押してくれそうですか。 それとも「監視されている」と感じるでしょうか。
- 「返信がない」は正しい合図でしょうか。 センサー型のように、本人が何もしなくてよい方式のほうが続くと思いますか。
- 家族の通知順は、主担当と副担当の二段階で足りますか。
- 服薬リマインドは必要ですか、それとも煩わしいですか。
- 費用は誰が負担すべきだと思いますか。 無料でなければ使わない、月額なら払う、自治体や企業が提供すべき——どれに近いでしょうか。
- タイに住む日本人の方へ。 日本にいる親の見守りに、このような仕組みを使いたいと思いますか。
ご協力のお願い
一問だけでも構いません。 hello@simplico.net 宛に、件名 「simpliCare feedback」 でお送りいただくか、LINE ID iiitum1984 までメッセージをください。二行の返信でも十分に役立ちます。「うちの親はアプリを入れない」というご意見も、「いつから使えますか」と同じくらい貴重です。
最初の5家族としての参加。 開発を決めた場合は、まず5家族に1か月間、無料でご利用いただき、親御さんのスマートフォンの設定は私たちが直接お手伝いします。件名を 「simpliCare beta」 として、どなたを見守っているか、親御さんの使っている機種を簡単にお知らせください。初期版はタイ在住のご家族が中心になる予定です。
いただいた声は、方針を変えることになった意見も含めて、続編の記事でまとめてご報告します。
よくある質問
simpliCareはもう使えますか。
いいえ。現時点では詳細な技術設計があるのみです。作る価値があるかを確かめるため、先に構想を公開しています。
日本語で使えますか。
初期版はタイ語と英語の予定です。日本語対応は、この記事への反響を見て判断します。
親はスマートフォンが必要ですか。
はい。iPhoneまたはAndroidにsimpliCareを入れ、シニアモードで使います。設定は家族が行えば、親は通知をタップするだけです。
親に新しいアカウントやパスワードは必要ですか。
いいえ。すでに持っているSNSアカウントでログインします。
転倒や急病を検知できますか。
できません。わかるのは、親が返信したか、どのボタンを押したかだけです。緊急通報や医師の判断の代わりにはなりません。
親が見守りを望まない場合は。
本人がアプリで同意しない限り、何も送られません。いつでも一時停止でき、家族にも通知されます。
なぜLINEを使わないのですか。
最初の設計はLINEでした。専用アプリなら通知の到達を確実に追跡でき、親側の画面を作り込め、家族全体を一つの仕組みで扱えます。その代わり親にアプリを入れてもらう必要があり、それが高すぎるハードルかどうかを皆さんに伺いたいのです。
誰が作っているのですか。
タイを拠点とするソフトウェア開発会社、Simplicoです。日系の製造業・物流・エネルギー企業向けに十年以上システムを納めてきました。simpliCareは初めての家族向けサービスになるため、まず家族の声を聞きたいと考えています。
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